『田園の詩』NO.23  「山芋掘り」 (1994.12.26)


 法事の席などで、私が山芋掘りに行く話をすると、「ご院家さんがそんなことをする
とは思わんかった」と皆さん驚かれます。

 法衣姿からは、あのボロ着をまとった芋掘りスタイルは想像しがたいのでしょう。
そして、掘る人の少なくなった時代に、喜々として山芋掘りを続けていることへの驚
きでもあるようです。

 私たちは<自然薯>なんてわざわざ区別するような言葉は使いません。単に<やま
いも>といいます。近くの山々にはこの山芋が沢山あります。

 山芋掘りには一人では行きません。危険を伴いますし、少しこわいし、楽しくもない
からです。私のパートナーは同級生の<清ちゃん>です。掘る腕前は同じ(二人とも
自分たちは名人と思っている)だし、一日の成果もいつも変わらないので、何の気兼
ねもしなくて済みます。

 二人で行く以外に、学校の先生を招待したり、初心者を指導したりする時もあります。
皆さん、山芋掘りの魅力に取りつかれるようですが、残念なことに、女性と行ったこと
はありません。土まみれになって深い穴を掘るだけという野性的な行為には、女性は
興味を示さないようです。

 女房に言わせたら「当たり前」だそうです。未だに山芋掘りのどこに喜々とするところ
があるのか不思議でならないと言います。


   
   1日で、これだけ掘れれば名人級です。ただ、私の山芋掘り師匠は、この5割増しくらい
   掘ります。 超名人で、とてもかないません。
   最近の写真がなかったので、古いものをやっと探して、写真コピーしました。 掘る道具と
   入れ物も一緒に写っています。フクシ(土を掘る鉄の棒)は155センチあります。



 ところで、苦労して掘った山芋はどうするのか聞いてみたら、皆さん、半分くらいは
親戚や知人にプレゼントするらしいのです。その場合、立派なものから持っていきます。
見苦しい芋は持っていけません。何故なら、他人に褒めてもらいたいし、少しは自慢も
したいからです。それで苦労が吹っ飛ぶのです。

 田舎にこんな友人や親戚(または、実家)のある都会人は幸せです。しかし、もらいっ
ぱなしはいけません。都会からは田舎にないようなおいしいお菓子や、役に立つ情報を
送り返さねば、信義にもとります。

 単なる儀礼的なお歳暮の多い昨今、心と心を結ぶ贈り物を心掛けたいものです。
                               (住職・筆工)

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